2010(平成22)年7月14日,宇都宮市文化会館大ホール(栃木県宇都宮市明保野町)において,栃木県立宇都宮高等学校(同市滝の原)の合唱コンクールが開催された。開会式での学校長あいさつによると,同校の合唱コンクールは,1958(昭和33)年から半世紀以上続く伝統の行事らしい。
筆者が同校の合唱を鑑賞するのは初めてであったが,同時に高校生の学級単位の合唱を鑑賞するのも初めてであった。筆者の住む岐阜県においては学級単位で合唱を行っている高等学校が,筆者の知る範囲では存在しなかったため,他の都道府県に焦点を移して模索していたところ,見つかったのがこの宇都宮高等学校だったのだ。同校は,枝野幸男元官房長官の母校でもあり,彼は同校の合唱部に所属していたそうである。
さて,筆者の宇都宮への旅は前夜からスタートした。まず名古屋発新宿行きの夜行バスで出発。新宿到着後は1時間ほど休憩をとり,午前6時30分過ぎに新宿駅を出発,JR埼京線に約30分間乗車。大宮駅でJR東北本線に乗り換え,約1時間かけて宇都宮駅へ移動。さらにJR日光線に乗り換え,鶴田駅で下車,徒歩で宇都宮市文化会館へ。
片道約8時間を費やした今回は,筆者がこれまでに合唱を鑑賞してきた学校の中では自宅から最も遠いところになる。これまではほとんど岐阜県の学校に限定して鑑賞していただけに,宇都宮高等学校の合唱には特別な想いを抱いていた。恐らく今回会場に集まった聴衆の中では筆者が最も遠方から来た人物だったであろう。演奏中はいつも通り保護者に混じって鑑賞していたわけだが,周囲の保護者らはもちろん,学校の職員らや生徒らも,まさか岐阜からわざわざ駆けつけた合唱研究家が混在していたとは気付かなかったに違いない(笑)。
今回の合唱コンクールでまず驚かされたのは,最初の全校合唱であった。合唱団のメンバーだけはステージに登壇し,その他の生徒は各自の座席で合唱したわけだが,その第一声を聴いた瞬間,筆者は心臓がひっくり返るようなショックに見舞われたのである。なぜなら,その声が非常に低かったために,その時初めて,この学校が男子校であることに気付いたからである(笑)。女子がいないのだ。私がこれまでに鑑賞してきた合唱のほとんどは,混声合唱であったため,ソプラノやアルトといった女声が不在の男声合唱にはいささか違和感すら覚えたが,やがて冷静さを取り戻し,圧倒的な重厚感のある,男子高校生の深みのあるハーモニーに酔いしれたのであった。
ところでなぜ合唱部ではなく,合唱“団”なのかは不明だが,恐らくこれは部活動ではなく,今回の合唱コンクールのために臨時に結成された組織,体育祭に例えれば応援団のようなものだからではないかと推察した。