加茂郡川辺町立川辺中学校合唱祭



 2013(平成25)年1月18日,川辺町立川辺中学校(岐阜県加茂郡川辺町中川辺)体育館において,同校の合唱祭が開催された。
 筆者が同校の合唱を鑑賞するのは,2010(平成22)年11月に開催された加茂郡中学校音楽会以来,2年2ヵ月ぶりとなる。また,合唱祭に足を運ぶのは2009(平成21)年2月以来,4年ぶりとなる。
 「Chorus revolution 〜合唱革命〜」というスローガンの下,各学級で取り組んできた合唱を披露した。


全校  「翼を広げて
1年生  「そのままの君で
1年2組  「明日へ
1年1組  「明日へ
1年3組  「Song is my soul
1年4組  「自分らしく
2年生  「時の旅人
2年2組  「君とみた海
2年1組  「この地球のどこかで
2年3組  「明日に渡れ
3年2組  「大地讃頌」 「花をさがす少女
3年1組  「大地讃頌」 「たじま牛
3年3組  「大地讃頌」 「モルダウ
3年生  「大地讃頌


 冒頭,川辺中学校の合唱祭へ足を運ぶのは4年ぶりであると述べたが,4年前と今回とでは異なる点が2点あった。1点目は,合唱の発表形態である。4年前は1〜3年生までの全学級が課題曲と自由曲の2曲ずつ披露していた。ところが今回は,1〜2年生は自由曲のみの披露で,課題曲と自由曲の2曲を合唱したのは3年生だけであった。
 2点目は,合唱祭の開催時期と会場である。4年前は2月上旬に川辺町中央公民館で開催していたのに対し,今回は1月中旬に学校の体育館で開催された。開催時期に関しては,約2週間の前倒しであり,1ヵ月以上の大幅なものではない。ただ,冬休みが明けた約10日後の開催であり,直前の練習時間が十分に確保できなかったのではないだろうか。そうした意味においても,個人的には2月の方が適しているとは思うが,さらに大幅な前倒しを検討してみるのも良いだろう。
 他校の事例を挙げると,従来は1月や2月に開催していた学校が11月に開催するというケースがあった。また,6月に開催していた学校が11月に開催するというケースもあり,11月という時期に開催するのが昨今の趨勢のようである。 川辺町立川辺中学校
 他方,会場に関しては,実は事前の確認が不十分で,4年前と同じ場所だと思い込んでいたため,当初は誤って川辺町中央公民館を訪ねてしまった。そこでは合唱祭を開催している気配がなく,最初は「インフルエンザで中止になったのではないか」と思った。と言うのも,以前に別の中学校の合唱祭でそのような事態に遭遇した経験があったからだ。その時は会場の入り口に,インフルエンザで中止になったという旨の張り紙があり,やむを得ずとんぼ返りしたという苦い経験をした。
 このようなインフルエンザが流行した場合の合唱祭の開催に関しては,学校ごとに対応が異なる。完全に中止する学校もあれば,日程を延期して開催する学校もあった。一方,学級閉鎖中の学級がありながらも合唱祭を強行する学校もあった。1学年4〜5学級の学校であったためそのような対応ができたのだろうが,先に紹介したとんぼ返りした時の学校は1学年1学級の小規模校だったため,延期を余儀なくされたのである。
 今回,川辺町中央公民館には中止の張り紙がなかった上,別の催事の準備が行われていたため,会場を間違えたことに気付いたのである。直ちに学校へ移動したが,幸い時間には余裕があったため,開演に間に合うことができた。

 さて,そんな川辺中学校の合唱祭を4年ぶりに取材したわけだが,同校の合唱に対する姿勢や合唱の質について筆者がどのように感じたか,という肝心とも言える点に言及しておこう。一言で言えば,4年前に比べて確実に向上しており,合唱が川辺中学校の「伝統」として着実に根付いているのを実感した。「改革」や「変革」の足跡が感じられる合唱に進化しており,スローガン通り,まさに「合唱革命」そのものであった

 それでは,各学年の合唱を聴いて感じたことを以下に述べる。

1年生「そのままの君で」
 1年生120名による学年合唱。まず感心したのは,ステージへの登壇が迅速にできていたということである。直前に会場の後方に1年生向けのメッセージが書かれた横断幕が出現し,それに気をとられていたこともあってか,気が付いたらすでに整列が完了していたのだ。もしも登壇中にふざけてしまったり私語をしてしまったりして合唱の開始が遅れてしまうと,その後の合唱に対する期待感が持てなくなってしまうが,1年生はトップバッターとしての重責を,合唱そのものだけでなく,登壇する姿から見事に果たしてくれたと言えよう。合唱では,一人ひとりがきちんと指揮者に注目し,口をしっかりと開けて豊かな表情で歌うことができていた。男声と女声の声量のバランスが良く,すでに変声期を終えたとみられる男子が多いためか,安定感と深みのある男声が女声を支えることができていた。「確かめあって生きたい」という歌詞があるが,この部分の「確かめ」と「あって」間の休符と,「あって」と「生きたい」の間の休符をさらに意識すると,曲への緊張感をもたらすことができるだろう。さらに,「伝えたい」の部分のクレッシェンド等,強弱の表現にも挑戦するとなお良いだろう。

2年生「時の旅人」
 2年生111名による学年合唱。2年生の学年合唱曲の中では最もスタンダードな曲だ。この曲は,曲名からも連想できるように,過去→現在→未来という時間の旅をテーマにした曲である。過去の自分を回想している部分の中に「汗をぬぐってあるいた道 野原で見つけた小さな花 幼い日の手のぬくもりが帰ってくる」という歌詞を繰り返すパッセージがある。この部分の8小節は,やや速度を落として歌うことになっており,楽譜には「急がずに 語るように」と示されているが,それが見事に表現できていた。男声と女声の声のバランスは概ね良かったが,アルトパートがさらに存在感を発揮できると良いだろう。さらに,「今君と 未来への扉開こう」からのパッセージは,未来への決意・希望を込めた前向きな気持ちを表現できるよう,特にフォルテを意識して迫力のある合唱になるとなお良いだろう。具体的には,次年度,最上級生として川辺中学校をリードする立場となる3年生になる決意を込めることで,現在の3年生に安心して卒業してもらえるような合唱をすることが求められよう。

3年生「大地讃頌」
 3年生116名による学年合唱。約3分の短い曲ではあるが,3年生の学年合唱曲として多くの中学校で歌われている定番の曲だ。この曲は,大地の荘厳さ,豊かさを謳っている曲であるが,そうした壮大な大地のイメージが伝わるような,ダイナミックな合唱であった。男女ともに大きな口で表情豊かに歌えており,立体感のある,いきいきとした音楽に仕上がっていた。この曲は混声四部合唱であるが,4つのパートの声がバランス良く響いていた。「平和な大地を 静かな大地を」の部分の強弱(ピアノ)とその直後の「大地をほめよ」からの部分のクレッシェンドが見事に表現できていた。また,最後の「母なる大地を ああ たたえよ大地を ああ」の部分のフォルティッシモからフォルティッシシモにかけての部分からは,横溢したエネルギーを放出させるような迫力が伝わり,深く感動した。最上級生としての自覚と矜持が伝わる合唱で,後輩の模範となる名演であった。

 以下に,閉会式の中で披露された文化委員長の話の全文を載録する。

 僕は正直悔しいです。僕達3年2組は優秀賞をとることができませんでした。でも僕は誇りに思っています。どのクラスにも真似できない合唱ができたからです。

 僕達3年2組は今日この合唱に至るまで様々なことがありました。自由曲が決まった時,この曲は本当に歌えるのだろうか,と皆が不安に思っていました。そして練習が始まっても歌えない状況でした。その中で話し合いが行われました。話し合いが行われるにつれて一人ひとりの意識が変わりました。でも,一人一人の意識が変わったからといって合唱の質は上がりませんでした。その中である日話し合いが行われました。一人一人がこの曲に込められている願いを考えました。そして戦争の悲惨さ,平和への想い,そして周りの人への感謝の3つを想いました。そして今日,この3つを想って歌いました。今までの練習の成果,そして一人ひとりの仲間を信じる気持ちを持って歌えたから僕は誇りに思っています。
 
誰にも真似ができない合唱――つまり,「オンリーワンの合唱」ができたことに,本当の価値があると思います。皆さんもそうだと思います。どのクラスも「オンリーワンの合唱」ができていたと思います。

 今まで皆さんはこの合唱祭でいい思い出をしようと思って取り組んできたと思います。いい思い出とは何でしょう。優秀賞をとること――確かに形としてはいい思い出かも知れません。でももっといい思い出というのは,さっきからずっと言っている「オンリーワンの合唱」をすることだと思います。だから,優秀賞をとれなかった人達も,この合唱祭でこの仲間と歌えたことをいい思い出にしてください。
 3年生の皆さん,もう合唱祭は終わりです。最後に116人で歌った「大地讃頌」を,中学校生活のいい思い出にしてください。1,2年生の皆さん,優秀賞をとれた時があっても合唱祭は今までのこのクラスの成果を発表する場,ということを忘れないでください。ナンバーワンではなくオンリーワン――これを目的とした合唱祭が行われることを僕は願っています





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【最終更新】2014年1月1日