各務原市立那加中学校合唱披露

代々歌い継がれる伝統の曲を披露



 2010(平成22)年5月21日,各務原市立那加中学校(岐阜県各務原市那加東亜町)講堂において,2年生と3年生の学年合唱がそれぞれ披露された。
 筆者が同校の合唱を鑑賞するのは,2009(平成21)年12月17日に開催された合唱祭に次いで2回目となる。
 今回披露された曲は,同校で代々歌い継がれている伝統の曲である,組曲「地球」。かつて同校に勤務した経験がある教員の話によると,この曲は1990年頃,財政的に裕福な各務原市から給付された奨励金を活用した同校が,作詞家に委託して誕生した曲だそうである。
 3曲から構成されるこの組曲の中から今回は,2年生が「」を,3年生が「そして 愛」を,それぞれ学年合唱で披露した。


2年生  「 (組曲「地球」より)


3年生  「そして 愛 (組曲「地球」より)



深化していた絆
 筆者が今回の合唱を鑑賞するに際して注目した点は,5ヵ月前の合唱祭からどれだけ成長し,仲間同士の絆を深化させ,合唱を通して活力を表現することができたか,そして先輩達から受け継いだ合唱の伝統が着実に継承され,さらにその伝統を単に維持するのではなく,より一層向上させていこうという決意が伝わるか,ということであったが,筆者の期待に応えるような見事な合唱であった。
 とりわけ2年生が披露した「緑」は,前年度の合唱祭における3年生の学年合唱曲と同じ曲であったが,その3年生を凌駕(りょうが)するほどの名演であった。例えば,特に男声の「水が清らかに海へ注ぐのは」などの箇所は,歌詞の一語一語を噛みしめるように丁寧な発音できていた。加えて,「動物たちの澄んだ目も」の直後のしばしの沈黙が絶妙な長さで,緊迫感がより強調されていた。
 今回は1年生による合唱は披露されなかったが,1年生はこれから2年生や3年生の先輩達の素晴らしい合唱に触れていく中で「自分達も先輩のような合唱ができるようになりたい」という憧憬(しょうけい)が高まり,合唱練習にも熱が入っていくことだろう。


頭声発声の必要性
 ところで那加中学校の合唱に関し,前述の教員は次のようにも語っていた。同校に在籍する生徒は,各務原市立那加第一小学校(以下,那加一)及び各務原市立那加第三小学校(以下,那加三)の出身者で構成されるのだが,その教員が那加中学校に勤務していた当時,那加一では合唱を,那加三では器楽合奏をそれぞれ音楽教育の柱として取り組んでいたそうである。
 とりわけ那加一では頭声発声(とうせいはっせい)を軸に据えた合唱指導が行われるため,歌声の響きが非常に美しい。筆者も実際に鑑賞したことがあるのだが,確かに頭声発声を意識した美しい響きが特徴で,まさに「天使の歌声」であった(那加一の合唱に関しては,拙稿「各務原市立那加第一小学校歌声発表会」を参照されたい)
 一方,那加三では合唱自体を行わないわけではないが,そこまで踏み込んだ合唱指導は行われず,どちらかと言えばリコーダーや鍵盤ハーモニカなどといった器楽の方を重点的に取り組んでいたとのことである。実は那加中学校の合唱祭の時に,「伴奏者は那加三の子が多い」と話していた保護者の声を耳にしたのだが,その真偽は定かではない。

 さて,このような異なる環境の中でそれぞれ育ってきた那加一,那加三の子どもたちが,期待と不安を抱えながら那加中学校に入学し,一緒に活動していくわけだ。当然,那加中学校でも伝統の合唱に取り組むことになるわけだが,その際,頭声発声の指導を受けてこなかった那加三の出身者は地声で歌うために那加一の出身者は動揺し,小学校で培ってきたせっかくの頭声発声が中学校では存分に発揮できないという問題が起こるそうである。
 確かにこれは難しい問題だ。どちらに合わせれば良いのかということで苦慮するだろう。解決策の一つとして,那加三においても頭声発声の指導を強化して那加一との平準化を図ることで,那加中学校に入学してからも円滑に合唱に取り組めるようにすることが考えられる。
 しかし,中学校において合唱を行うことの一義的な目的は,頭声発声のような,音楽的な技術を磨くことではないはずだ。お互いに励まし合ったり,指摘し合ったりする中で仲間との絆を深化させることが最大の目的なのであり,その目的を実現させるための手段として用いる合唱そのものの音楽的な技術を磨くことは,二義的,副次的な要素に過ぎない
 したがって,那加三において頭声発声を指導する必要性はなく,さらに那加中学校においても頭声発声に主眼を置くことはおよそ好ましくない。那加中学校では各学級,学年の独自色を出せるよう,お互いに切磋琢磨し合えば良いのである。要するに,小学校の合唱と中学校の合唱は分離して捉える必要がある,ということである。

 現実的には那加一の出身者が那加三の出身者に妥協しているのかも知れない。特に男子は変声期を迎えるため,高音域が出し辛くなり,那加一の時のような頭声発声を持続させることは困難だろう。しかし,それはそれで結構なことではないのか。中学校における合唱を,小学校の延長として捉えるのではなく,小学校で学んだことを土台にしつつも,中学校入学を機に出会った仲間との新たなスタートという位置付けで合唱に取り組み,仲間づくりに努めることが肝要なのではないだろうか。


那加中学校の合唱祭は2009年より8年連続で取材しています。その記録については,ご要望があれば掲載したいと考えていますのでご希望の年をお知らせください。


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【最終更新】2017年3月3日